マクロ撮影に大型センサーのカメラはいらない

Lumix GH6の稼働を開始しました

パナソニックのLumix GH3〜GH5は一応、写真用カメラではあるが、映画撮影に使用されてきたのは知っていた。最新ミラーレスカメラGH-6が発売されたので手に入れたところ、期待以上の動画性能。というかもう映画でメインのカメラにできる、完全な動画カメラ。

なにしろ本体内部に最高ProRes5.7Kで収録できる。パナソニックの映画カメラVARICAMと同等のV-log収録も可能。パナソニックが開発した可変フレームレート撮影もできるほか、4Kで最高毎秒120フレーム、フルHDなら毎秒240フレームでの撮影も選べるので、高画質のスローモーション映像が実現できる。

しかもこれは動画カメラとして使う時に重要なポイントだが、熱がこもって停止することはいっさいない。なにしろデジカメなのに排気口までついてる徹底ぶりだ。他のデジカメではセンサーが過熱するため、センサー保護のために頻繁に強制的に停止するので、外部録画機器を用意しない限り長回し(注:長時間撮影のこと)ができない場合が多い。

このカメラを携えて東京近郊の里山にでかけ、生き物を撮影している。

虫の世界を映像化する難しさ

昔、テレビ番組でアリの撮影にいどんだ。

そのとき思い浮かべたのはフランスのドキュメンタリー映画「ミクロコスモス」(1996年製作/73分/フランス 原題:Microcosmos)。南フランスの田舎を舞台に、虫たちの世界を詩的に描いた映画で、フランスでは大ヒットしたという(残念ながら日本ではあまりヒットしなかった)。フランス人はこういうのが好きらしい。なにしろファーブルの国だ。

虫をわたしたちと同じ生き物と感じてもらうには、自分たちが虫のサイズになる必要がある。そうすれば虫の喜びや悲しみを感じることができるだろう、と。それにはぜひともクローズアップでアリの顔、表情をとらえたい、と思った。

試しにロケスタッフを連れて公園にいるアリ(クロヤマアリという普通の種)を狙ってみた。ズームレンズの先端にクローズアップフィルターを装着し、いざ撮影。しかし、アリは画面いっぱいになるどころか、5分の1にも拡大できない。それはそうだ。クロヤマリの体長は5mmくらいしかないのだから。

今度は、日本にいる一番大きい種類のアリであるクロオオアリをスタジオに持ち込んだ。クロオオアリの体長は大きい個体で15mmもある。1匹を竹ひごに止まらせ動きを制限したところで、手練れのカメラマンがテレビロケ用カメラで追った。けれども、動きが速く、なかなかフレームに入らない。アリはあっという間に視界から消えてしまう。やっと動きを止めたと思ったら、アリの頭全体にフォーカスが合わない。フォーカスの合う範囲が狭すぎるのだ。

照明も問題だった。クローズアップに足りる十分な明るさを確保するには、かなり強い光を当てる必要があった。そうなるとハロゲンライトから放射される強烈な熱でアリが弱ってしまう。当時はまだLEDライトがなかった。その日のロケは半ば失敗に終わった。

要するに、接写に適したレンズやカメラがなかったのだ。

もっとも、私にはフィルムカメラでの接写の経験があった。16mmフィルムカメラなら接写に適したレンズがあり、極小のものでも撮影できるかもしれない。

しかし、すでにテレビ局からは現像所が消滅し、フィルム撮影の技術者もいなくなっていた。フィルム撮影はコストの面で実現できなかった(注:なんと、その昔はテレビ局内にもフィルム現像所があった。外に持ち出せるビデオカメラが実用化されるまでは、ニュース取材や外ロケで映画用16ミリフィルムカメラによる撮影をしていた時代があったのだ。フィルム好きにとってはある意味うらやましい話である)。

医療用内視鏡がマクロ撮影に合う理由

医療用の内視鏡を使うことも検討した。

内視鏡には口や鼻から飲み込む軟らかい消化管検査用内視鏡と、手術に使うものの2種類ある。手術に使うものはまっすぐな金属製の鏡胴で曲がらない。腹部や胸を1センチほど切開し、そこから差し入れて使う。どちらのタイプも接写に強い上、画角が広く、面白い絵が撮れる。検査や手術の目的に合わせて、ピントの合う範囲もできるだけ深くなるよう設計されている。さらに、真っ暗な体内を撮影するために、先端にはLEDライトが仕込まれている。また、当然ながら完全防水仕様だ。

このように、内視鏡は薄暗い草むらや浅い池の中など、ミクロの自然を映像化するのに適した特性を備えている。そもそも、私たちの体内自体がミクロの自然そのものだから、当然だ。

大きな違いは2つある。ひとつは柔軟性。手術用内視鏡が金属製で細長い棒状であるのに対し、検査用内視鏡は曲がりくねった消化管を通り抜けるようにやわらかくできている上、手元の遠隔操作で先端の方向を自由に変えられる。

もうひとつの違いはレンズとカメラの位置関係だ。検査用内視鏡では先端のレンズに続いて超小型ビデオカメラ本体が埋め込まれているのに対して、手術用内視鏡では約30センチ以上と鏡筒が細長く、カメラはマウントを介して鏡筒に取り付ける構造になっていることだ。だからマウントさえ工夫すればテレビロケ用カメラも使用可能のはずだった。なんとか使えないかと動いた。

しかし制作予算で買うには高額すぎた。買うのがダメなら借りるという方法がある。しかし、映像機器レンタル会社は内視鏡を扱っていなかった。と、なればメーカーにお願いして直接借りるしかない。問題は使い道だった。相手は医療用機器メーカーである。まさか一度は土にまみれた経歴のある、二度と使い物にならない内視鏡を返すわけにもいかない。行き詰まった。

ちなみに、現在では中国のVenus Optics(ブランド名LAOWA)という光学機器メーカーから手術用内視鏡とほぼ同等スペックのマクロレンズが発売されている(LAOWA 24mm F/14 2X Macro Probe)。

虫の目を実現する鍵はレンズとイメージセンサーのサイズ

結局、一番役に立ったのは、画質が劣りフォーカス調整や画角の自由がないものの、近寄れて小回りが効く小型の固定焦点カメラだった。監視カメラや工業用カメラで使われるものと同じ小さなカメラで、それ自体では録画機能を持たず、ファインダーも液晶画面もない。テレビではバラエティ番組で出演者のすぐに近くに置いてローアングルでバストショットを狙ったり、定点カメラ、隠しカメラとしてよく使われる。接写が可能な交換レンズもある。

いま、レンズ交換可能なデジタルカメラの分野では、ミラーレスの「フルサイズ」規格(イメージセンサーのサイズが35ミリフィルムと同じ)が全盛だ。イメージセンサーが大きい方が感度が高く画質が良い、ボケ味が出てエモい絵になる。などが人気の理由だ。

しかし実は、アリのような小さな生き物を撮影するためには、撮影対象の大きさに合わせてレンズもイメージセンサーもできるだけ小さい方がよい。

一般的にはレンズの口径が大きいほど明るくなり有利とみなされるが、その分重くなるし、そもそも接写目的ではレンズの中心部しか利用されないので意味を持たない。

マクロ撮影ではレンズ先端と撮影対象との距離が数センチメートルになることもある。口径が大きいと、照明もままならない。

微細なものを撮影するには、レンズは極端な話、顕微鏡の対物レンズのような小さなレンズが一番だ。

一方、画質はセンサーが大きい方が有利だが、あるのは大きなレンズばかりで、ボケやすいという欠点もある。接写では、センサーが大きいほどレンズの屈折率を上げなければならず、色にじみが発生しやすくなる。

その点、小さなイメージセンサーだとレンズ設計に無理がない。簡単に接写性能を上げられるのだ。iPhoneなどのスマホのカメラが、アダプターなしでも接写できる性能を備えているのも、ひとつにはイメージセンサーのサイズが小さいことが理由だろうと思われる。

マイクロフォーサーズという選択肢

Lumix Gシリーズはマイクロフォーサーズ(MFT)という規格に基づくカメラで、イメージセンサーのサイズはフルサイズセンサーの4分の1。映画撮影用のカメラで多く採用されているイメージセンサーのサイズより一回り小さく、ビデオカメラに搭載されているイメージセンサーの7.7~1.9倍。MFTは機動性と画質の絶妙なバランスを実現している。

レンズが小さくてすむので、撮影機材がコンパクトになるのもうれしい。

里山の撮影セットはカメラ本体と交換レンズ2本、照明機材、バッテリー、三脚その他周辺機材を含めてバックパックひとつに納めることも可能だ。

超接写に使っているLaowa 25mm f/2.8 2.5-5X Ultra Macro. このレンズはCanon EFマウントなのでマウントアダプターを介して接続。レンズ先端には付属のLEDリングライトを装着。

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